はじめに
脳性まひといえば、主に身体の各部位に麻痺症状が見られることが特徴です。
また、脳性まひの症状は運動麻痺に限らず、コミュニケーションや情緒面など様々な症状が見られることもわかってきています。
こういったさまざまな症状が見られることから、脳性まひは複雑で難しく重症心身障がい児となってしまうことも多い疾患です。
その中でも身体的な問題につながりやすい症状に運動麻痺がありますが、脳性まひの運動麻痺は大きく3つに分かれることがわかってきています。
そこで今回は、脳性まひの3つの運動麻痺のタイプについて詳しく紹介していきたいと思います。
脳性まひの麻痺のタイプは大きく分けて3つに分かれる
脳性まひの運動麻痺のタイプは大きく分けて3つに分かれます。
以下に麻痺のタイプについてまとめていきます。
痙直型
一般的な麻痺のタイプで、脳性まひの多くの方がこの痙直型です。
いわゆる、脳卒中などによって麻痺が見られるようになる状態と似たような症状が特徴です。
身体の麻痺の部位もさまざまであり、身体の左右どちらか一方の麻痺がみられる「片麻痺」。
手と足に麻痺が見られるけれども、特に足に強く麻痺症状がみられる「両麻痺」。
手も足も強く麻痺症状が見られる「四肢麻痺」が多く見られます。
麻痺の症状は、筋肉の緊張が高く他人が手足を動かそうとしてもかなりの抵抗があります。
また、一方向への身体の運動が強く、健常者のように様々な身体運動を行うことが難しい傾向があります。
例えば、歩くためには足の全ての筋肉が互いに緊張したり、緩んだりを繰り返しながらうまく運動調整されることで歩行を行うことができます。
しかし、痙直型の脳性まひの方は運動しようと思うと一方向のみの運動になってしまい、スムーズに歩くことが難しくなってしまいます。
つまり、脳からの指令により一方的に働く筋肉と、逆に脳からの指令が弱すぎて働きにくい筋肉があるということですね。
このような症状が見られるのが痙直型の脳性まひです。
痙直型は脳性まひの約70%を占めると言われています。
ディスキネティック型(アテトーゼ型)
以前はアテトーゼ型と言われていた運動麻痺のタイプです。
現在は、ディスキネティック型と呼ばれることが一般的になってきており、痙直型と違って全てのディスキネティック型が手と足も含め運動麻痺が身体全体に及ぶことが特徴です。
ディスキネティック型は、痙直型と違い常に筋緊張が変動します。
つまり、痙直型のようにじわりじわりと持続的に筋緊張が高くなっていく状態ではなく、緊張が高くなったり逆に低くなったりする運動麻痺です。
いわゆる「不随意運動」と呼ばれる運動麻痺で、不規則に筋緊張が変動します。
また、ディスキネティック型はさらに2つのタイプに分かれます。
一つはディストニック型、そしてもう一つはヒョレオアテトーティック型です。
ディストニック型は身体的に重度になりやすいタイプです。
つまり、筋緊張の変動はあるけれどもどちらかというと筋緊張が強い状態が多くなるタイプです。
筋緊張の変動は少ないため、一見すると痙直型と間違えてしまうことも多くあります。
また、不随意運動が肺を始めとした内臓機能の筋にも影響するため、痰の貯留などにより呼吸状態が安定しにくいといった症状も多く見られます。
ヒョレオアテトーティック型は、筋緊張の変動が大きくディストニック型より身体的には軽度な場合が多いです。
一人で座ることができる方も多いですが、筋緊張の変動が見た目にもわかるぐらい常に身体が動揺しています。
話をしたり歩いたりすることができる方も多いのですが、筋緊張の変動が大きく運動調整が難しいことが特徴です。
失調型
失調型もディスキネティック型と同じで、運動麻痺が手や足を始めとした全身に及びます。
症状は軽度である場合がほとんどで、階段を登ったり平地を走ったりすることも可能である場合が多いです。
ただ、不安定な場所(グラグラする場所や高所など)になると、フラフラとバランスをとることが難しくなってしまいます。
これは小脳性(小脳は運動を調整する役割があります)の運動麻痺で、見かけ上はほとんど健常者と変わりません。
また、各スポーツ(運動)時においてもぎこちない動きが多いことも特徴の一つです。
例えばサッカーのときにボールを上手く蹴ることができなかったり、野球のときにキャッチボールができなかったりします。
こういった日常生活上は問題がない場合が多いけれども、応用動作時に問題が見られるのが失調性のタイプの特徴です。
脳性まひは複数の運動麻痺のタイプが混在している
このように脳性まひの運動麻痺のタイプは、それぞれのタイプにより特徴が異なります。
ただ、脳性まひの運動麻痺は、一つのタイプのみの運動麻痺の方はほとんどいません。
複数の運動麻痺のタイプが混在している場合が多く、一つの運動麻痺が症状として大きく見られ、それに付随する形で他の運動麻痺の症状が見られます。
つまり、痙直型やディスキネティック型のみの運動麻痺ではなく、痙直型の症状が強いけれどもディスキネティック型の症状も軽度見られるといった感じですね。
そのため、純粋に痙直型だけとか失調型だけといった脳性まひの方はほとんど存在しないのです。
こういった個々の多様さが脳性まひの症状特有の複雑さにつながっているのかもしれません。
まとめ
脳性まひの運動麻痺の症状は個人によってさまざまであり、複数の運動麻痺が混在しています。
その中でも痙直型が最も多く、持続的に筋緊張が高くなり手と足の分離運動が難しく身体の各部位に麻痺症状が及びます。
ディスキネティック型は、筋緊張が変動する運動麻痺のタイプで全身に麻痺症状が及びます。
ディスキネティック型はさらに2つのタイプに分かれ、ディストニック型が筋緊張の変動は少ないけれども身体的に重度になりやすいタイプです。
もう一つのヒョレオアテトーティック型は、身体症状は比較的軽度ですが筋緊張の変動が大きく見られます。
失調型は、3つのタイプの中で最も身体症状は軽度ですが不安定な場所でバランスを崩しやすかったり、サッカーや野球などの運動をすることが苦手になりやすかったりといった特徴があります。
このような3つのタイプが脳性まひの方には混在しています。
混在している運動麻痺の症状を理解するためには、それぞれの運動麻痺の特徴を知ることが大切です。
脳性まひの運動麻痺とはなにか、しっかり把握することで日常生活を快適に過ごせるようにしていきましょう!