はじめに
小児リハビリテーション(特に理学療法)の対象となる小児疾患の代表的なものに『脳性まひ』があります。
しかし、脳性まひというとなんとなく身体的な麻痺症状があるのかな?と思われる方がほとんどではないでしょうか。
また、脳と聞くとなんだか難しそうで苦手意識があったりするのではないかと思います。
今回は、そんな脳性まひという疾患について簡単に分かりやすく紹介していきたいと思います。
意外と曖昧?脳性まひの定義から読み取れる症状とは?
脳性まひの定義は厚生労働省のホームページによると、「受胎から新生児期(生後4週間以内)までの間に生じた脳の非進行性病変に基づく、永続的なしかし変化しうる運動および姿勢の異常です。進行性疾患や一過性運動障害または将来正常化すると思われる運動発達遅滞は除外します」と定義されています。
また、理学療法士を始めとしたリハ専門職の中で広く使われている定義としては、2005 年 Executive Committee for the Definition of Cerebral Palsy によるもので「脳性麻痺は運動と姿勢の発達が障がいされた一群をさす。その障がいは,胎児もしくは乳児(生後1 歳以下)の発達途上の脳において生じた非進行性の病変に起因するもので,活動の制限を生じさせる。脳性麻痺の運動機能障害には,しばしば感覚,認知,コミュニケーション,知覚,行動の障がいが伴い,時には痙攣発作がともなうことがある。」と定義されています。
なにやら難しく書いてありますが、簡単に言うと『生まれる前後に脳に障がいがあった場合はほとんど脳性まひと診断される』ということです。
また、脳性まひという疾患はかなり広い概念で表現されていてあいまいな定義をされていることもわかります。
以前は脳が障がいされることで身体の運動麻痺のみが主に現れることが脳性まひの大きな症状でした。
しかし、現在はそれだけでなく感覚・認知・コミュニケーション・知覚・行動・痙攣発作など様々な障がいも含まれます。
それだけ、脳性まひという疾患は曖昧で産まれたばかりのときは診断が難しいということが考えられます。
脳性まひとはどのような症状がみられるのか
では脳性まひというと、どのような身体症状を思い浮かべるでしょうか。
おそらく「身体の筋緊張が高く動作を行うことが難しい状態」という症状を考えると思います。
確かに手や足・体幹の麻痺分類によって違いますが、筋の緊張が高い状態が動作を難しくすることが脳性まひの特徴です。
しかし、周産期医療の発展により早産・低出生体重児が増加したことでその症状が変わってきています。
緊張が低い状態がベースにあって重力下で姿勢や動作を保持することが難しい子どもたちが増えてきています。
また、今までにはあまり見られなかった経管栄養や酸素吸入、気管切開などの医療的なケアが必要なお子さんも増加してきています。
これは、胎内(母親の子宮内)において急激な体重の増加が起こり始める在胎28週未満で出生するお子さんが多くなってきているためです。
体重が急に増えることで身体の状態が十分でないままに産まれることが身体の筋の低緊張や医療的なケアの原因となっているのです。
脳性まひの麻痺のタイプは主に3つに分かれる
①痙直型
最も一般的な麻痺のタイプで、脳性まひの中でもこのタイプが最も多いです。
いわゆる過緊張タイプで筋緊張が高く、決まった運動パターンが多く見られます。
産まれたばかりの頃はそれほど緊張が高くはならず、手や足の運動も活発に起こっているように見えます。
しかし、だんだんと決まった運動パターンが強くなり、次第に筋肉の緊張が高い状態になっていきます。
手は曲がる方向(屈曲パターン)、足は突っ張る方向(伸展パターン)になりやすい傾向があります。
②ディスキネティック型(従来のアテトーゼ型)
従来分類されていたアテトーゼ型の脳性まひで、現在はディスキネティック型と言われています。
さらにディスキネティック型から2つに分かれて、ディストニック型とヒョレオアテトーティック型に分かれます。
ディスキネティック型の特徴は、身体の中心部分(体幹部分)は低緊張がみられます。
手や足は常に力が入ったり抜けたりを繰り返す不随意運動がみられ、手足が思ったように動かしにくいという特徴があります。
その中でもディストニック型はより重度になりやすいタイプです。
筋緊張が高い状態が続きながら不随意運動を繰り返すといった症状がみられます。
ヒョレオアテトーティック型は、ディストニック型より身体的に軽度になりやすいタイプです。
ただ、不随意運動の幅が大きく常に身体が動いているような筋緊張の変動がみられることが特徴です。
またどちらのタイプにも言えることですが、手足・体幹の全身に麻痺症状が及ぶことがほとんどです。
③失調型
失調型もディスキネティック型と同じで手足・体幹の全身に及びます。
一見するとそれほど麻痺症状は見られないこともありますが、不安定な場所での歩行時にフラフラとバランスをとることが難しかったりすることが多いです。
また、身体を動かすときにぎこちない動きが多く、サッカーやキャッチボールなどの応用動作が難しかったりすることが特徴です。
まとめ
このように脳性まひの症状は周産期医療の発展とともに次第に変化してきています。
こういった複雑な症状があることから脳性まひは難しい疾患であると捉えられてしまうのかもしれません。
しかし、脳性まひという疾患にとらわれず子どもたち一人ひとりにあった関わりをもつことが大切だと思います。
脳性まひという疾患を見るのではなく子どもそのものを見て関わりをもつこと、これが脳性まひという疾患を理解することにつながっていくのではないでしょうか。