はじめに
日本の出生率は年々減少しており、一人の女性が生涯子どもを出産する人数は2人に満たなくなってきています。
出生率が低下すればその分障がいを抱えるお子さんの出生数も少なくなりそうな気がします。
しかし、実は近年の周産期医療の発達により低出生体重児はむしろ増加してきているのです。
今回は、近年増加してきている低出生体重児についてご紹介していきます。
低出生体重児とはどのような症状が見られるのか
出産は皆さんご存知のように母子への負担が大きく、場合によっては命の危機にさらされることもあります。
そのため、以前は出産時になくなってしまう命も多かったのですが、近年は周産期医療の発達によりそのリスクも減少してきています。
つまり、在胎期間が少なく小さく産まれてきても命が助かる可能性はかなり高くなってきているということですね。
しかし、周産期医療が発展することで低出生体重児が増加してきています。
低出生体重児は今までのような障がい像ではなく、新たな障がい像のリスクを抱えながら生まれてきます。
新たな障がい像とは、身体が全体的に『低緊張』状態が見られ、うまく身体を動かすことが難しいといった症状が見られます。
つまり、以前の脳性まひのように手も足も緊張が高く、立ち上がりや歩く時に筋の過緊張が大きく影響するといったような症状は少なくなってきています。
逆に手・足・体幹のいずれも筋が低緊張状態になってしまい、重力に逆らって身体を動かすことが難しいといったような症状が見られます。
低出生体重児として出生するということは、全身的に筋が低緊張状態になりやすいということですね。
なぜ、全身が低緊張状態になってしまうのか?
では、なぜこのように低緊張状態が見られるのでしょうか?
人の赤ちゃんは妊娠期間(胎生期)の間に急激に体重が増加する時期(在胎28週以降)があります。
しかし、低出生体重児の子どもたちはそれよりも前に出生してしまうため、十分に身体が形成される前に出生してしまうのです。
胎児期の急激な身長と体重の増加により、徐々に子宮内は子どもにとって狭くなってきます。
急激に体重が増加するこの時期に、狭い子宮の中で丸まった姿勢をとることで適度な筋緊張を維持できるようになってきます。
筋の低緊張状態はどのように発達に影響するのか?
では全身の低緊張状態が見られるとどのように発達に影響があるのでしょうか。
全身が低緊張状態になるということは、重力に逆らって身体を動かすことが難しくなります。
そのため、産まれてきてすぐの赤ちゃんの時期に動きたいという意欲があってもなかなか自分で動くことができません。
なぜなら地球の重力に逆らって身体を動かすだけの筋緊張が不足しているからです。
身体を動かさなければ運動発達は当然遅れてしまいます。
こういったことから例えば自分でうつ伏せができなかったり、歩き始めが遅かったりなどの1歳前後までに起こる運動発達が遅れてしまうのです。
また、大きくなっても野球・サッカーなどの球技が苦手であったり、縄跳び・鉄棒等の運動全般が苦手であったりなど様々な運動の場面で筋の低緊張状態による影響が見られます。
ただ、脳性まひのように明らかな麻痺症状がある(筋が過緊張状態になる)お子さんは少なく、一般的には歩行が出来ないということはほとんどありません。
低出生体重児のお子さんの多くは、全身的に低緊張状態があり運動発達が遅れやすい傾向がありますが、歩行自体は可能になることが多く、日常生活は健常者のお子さんと同様に過ごすことが出来るようになってきます。
その一方で、低出生体重児は脳性まひのような中枢性の疾患を合併するリスクも大きいです。
周産期に何かしらのアクシデントがあり脳にダメージがあった場合は、医療的なケアが必要になる場合もあります。
しかも全身が重度な低緊張状態になってしまい、極端に自分で動くことが難しくなってしまうこともあります。
低出生体重児は、いわゆる『重症心身障がい児』のリスクも大きいということですね。
このように出生率は低下し赤ちゃんの数自体は少なくなりましたが、障がいをもった子どもたちの数が少なくなったわけではありません。
新たな障がい像とともに、ある程度日常生活は行えるけれども運動全般が苦手になってしまうというパターン。
そして、医療的なケアが必要で身体的に重度な状態になってしまうパターンの2パターンに分かれることが多くなってきています。
まとめ
このように近年の小児リハビリテーションの対象となる疾患は、低出生体重児が増加してきたことでその病態が変化してきています。
早産で生まれてきても救命されることが多くなりましたが、その分低出生体重児が増加し今までとは違った障がいを抱えてしまうリスクも増加してきました。
低出生体重児は、胎児期に十分に丸まった姿勢をとることで筋緊張のバランスを調整する経験が少ないために全身が低緊張状態になりやすくなります。
全身が低緊張状態になることで、重力に逆らって身体を動かす経験が少なくなり結果的に運動発達が遅れてしまったり、運動全般が苦手になってしまったりします。
また、低出生体重児であるということにより運動面だけではなく、知的・情緒・社会性の障がいである発達障害のリスクも高くなります。
低出生体重児はただ単に早く産まれてきて体重が軽い状態になるだけではありません。
現在の周産期医療が抱える問題をしっかり理解していきたいですね。