重度心身障がいとは、重い身体障害の他に、様々な程度の知的障害やてんかんなどを合併している状態を言います。
症状や障害はひとりひとり異なります。
この記事では、重度心身障がい児・者の特徴についてご紹介します。
重度心身障がいとは?
重度の肢体不自由(身体障害)と重度の精神遅滞・知的障害、てんかんや行動障害などが重複した状態を「重度心身障がい」と言い、その状態にある子どもを「重度心身障がい児」、満18歳以上の者を「重度心身障がい者」といいます。
『重度心身障がい』というのは医学的な診断名ではなく、児童福祉法上の措置を行うための呼び名であり、その障害は人によって様々です。
日本にはおおよそ43,000人の重度心身障がい児・者がいると推定されています。
重度心身障がいの原因・症状
原因となる疾患も、発症する時期によって様々です。
胎内感染症や染色体異常などによる出生前の原因や、分娩異常や早産・超低出生体重児、低酸素脳症などの出生時または新生児期の原因、また髄膜炎や脳炎などの周産期以後の原因などがあげられます。
重度心身障害がいの出現率は、対人口比0.03%と言われていますが、最近では、医療の進歩により、かつては超低出生体重児や重症仮死などで救えなかった命が救出できるようになり、その発生数は増加していると言われています。
重度心身障がいの症状は、筋緊張亢進や姿勢保持の障害、生活リズムの障害、呼吸障害、摂食障害、消化管障害、知的障害などがあります。
超重度の場合は人工呼吸器や気管切開での呼吸管理、経管栄養や胃ろう、中心静脈栄養などでの栄養摂取が必要となります。
重度心身障がいの判定と分類
判定基準は国では明確に示されていませんが、『大島の分類』という方法で判定するのが一般的です。
大島の分類
身体機能とIQで判断し、区分1~4に該当する方が重度心身障がいに分類されます。
また、区分2~9に該当する方は、重度心身障がいの定義には当てはまりにくいですが、
- 絶えず医学的管理下に置くべきもの
- 障害の状態が進行的と思われるもの
- 合併症があるもの
が多く、「周辺児・者」と呼ばれています。
重度心身障がいと呼ばれるほど症状は重くないものの、障害の程度自体が軽いわけではないため、常に医療的ケアが必要です。
横地分類
『横地分類』は、大島の分類の項目数を増やし、より具体的に障害の区分を明確にしたものです。
移動機能レベルと知能レベル、その他特記事項の3項目で区分を判断します。
重度心身障がいの二次的合併症
重度心身障がい児にみられる主な合併症としては、呼吸器疾患、てんかん発作、消化器疾患、骨折などの整形外科的疾患があげられます。
呼吸器疾患
重度心身障がい児にとって呼吸の問題は最も重要な問題です。
呼吸器疾患は単独で存在することは少なく、様々な病態が複雑に絡み合っています。
そのため、筋緊張異常や摂食・嚥下障害、側弯などの体の変形などとの相互関係の中で呼吸障害を捉える必要があります。
呼吸機能の低下により喘息や無呼吸、呼吸困難を生じやすく、慢性的な低酸素状態による心不全には要注意です。
食べ物や唾液の飲み込みがうまくできないことによる誤嚥や、軽い風邪からは容易に重症の肺炎となることもあります。
呼吸障害は経年的に変化してくるため、その都度必要な治療を受ける必要があります。
なお、重度心身障害児の最大の死因は肺炎だとされています。
神経疾患
神経疾患としては、てんかん発作や筋緊張の亢進があげられます。
てんかんとは、脳細胞の過剰な電気活動による発作を繰り返す大脳の病気です。
一般的には0.8%ほどの頻度ですが、重度心身障がい児の場合、60~65%と高頻度でてんかんを発症していると言われています。
てんかん発作の引き金となるものとしては、
- 発熱や体調不良
- 不安や驚きなどの環境
- 睡眠障害
- 消化器症状
- 他の薬との相互作用
などがあげられます。
iPadやテレビのちょっとした光や音も発作の引き金となる場合があります。
消化器疾患
便秘が多く、特に筋緊張の高い人では重症化して腸閉塞が生じることがあります。
胃の内容物が気道に入ってくる胃食道逆流症も重度心身障がい児にはよく見られます。
新生児から3ヶ月ぐらいまでのお子さんには生理的な胃食道逆流がありますが、病的なものだと、嘔吐や吐血、反復性肺炎などがみられます。
重症化すると胃や十二指腸に潰瘍ができることもあります。
便秘の予防や早期の処置、胃の内容物が逆流しないような体位の工夫、症状に応じた内服が大切です。
骨折
重度心身障がい児では、何かをして骨折をする、というよりは何もしないでも骨折してしまします。
その原因としては、
- 運動機能が低下し骨密度が低く、骨粗鬆症状態にあること
- 慢性的な低栄養
- 日照不足や抗けいれん薬によるビタミンD障害
などがあります。
また、発見が困難なことも多いので、
- 発赤や腫脹の有無
- 痛がったり不機嫌な様子
- 異常に動かしやすい、動かすと音がなる
- 全身状態の変化
などの観察から早期に判断することが大切です。
これらの合併症は、相互に関連し、悪循環となって重症化していくため、合併症への理解と適切な対応が重要です。
また、周囲とうまくコミュニケーションが取りづらかったり、生活リズムの乱れなどの心理的なストレスは、これらの悪循環を生じる契機となるため、日々の生活の中での支援や関わりがとても大切となってきます。
日常生活における支援
重度心身障がいをもつ人にとっては、医学的な治療とともに、適切な姿勢の保持や心理面への対応などの日常的な介助や関わりでの適切で総合的な支援が重要です。
- 心理的な不安を和らげることによる筋緊張亢進の軽減
- 呼吸が楽にできて胃食道逆流症を予防できるようなリラックスした姿勢保持や体位変換
- 安全な栄養摂取方法の選択と全身状態や体格などを考慮した栄養管理
- 誤嚥を最小限にする適切な条件の食事・水分摂取
このような日常生活における対応が適切に行われているかどうかが、生命と生活の質を大きく左右します。
まとめ
「重度心身障がい児・者」とは、重度な身体障害と知的障害を併せ持つ方のことを言い、おもに大島の分類によって判定されています。
重度心身障がいの特徴は、筋緊張亢進や呼吸障害、摂食障害、消化管障害、知的障害など多岐に渡り、ひとりひとり異なっています。
それぞれの症状・障害が複雑に絡み合って合併症や悪循環を生じるため、医学的な治療に加え、症状の理解と日常生活における適切な支援がとても重要です。