毎年4月2日は、国連が定めた『世界自閉症啓発デー』です。
この日は、全世界の人々に自閉症を理解してもらう取り組みが世界各国で行われています。
日本でも毎年4月2日から4月8日を、自閉症をはじめとした『発達障害啓発週間』として、シンポジウムなどのイベントが開催されたり、東京タワーが青色にライトアップされたりと、様々な啓発活動が行われています。
では、
『自閉症』ってよく耳にするとは思いますが、実際にどんな症状や障がいがあるか、ご存知ですか?
今回は、そんな『自閉症』について、ご紹介します。
1.自閉症とは?
『自閉症』とは、多くの遺伝的な要因が複雑に関与して起こる生まれつきの脳の機能障がいのひとつです。
最近では、『広汎性発達障害』と総称される発達障害の代表的なものが『自閉症』になります。
厚生労働省における自閉症の定義としては、
「自閉症とは、3歳くらいまでに現れ、
①他人との社会的関係の形成の困難さ
②言葉の発達の遅れ
③興味や関心が狭く特定のものにこだわること
を特徴とする行動の障害であり、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。」
とされています。
その診断は、DSM-5という診断基準に基づいています。
定義にも含まれるように、対人関係の難しさやコミュニケーションの障害、興味や活動に対するこだわりの3つの特徴が幼児期からみられることが診断基準になっています。
最近では、学童の1~2%(100人に1人)が自閉症スペクトラム障害*であると言われており、
その有病率は増加傾向にあります。
*自閉症スペクトラム障害(ASD):
精神疾患の診断基準として国際的に広く使われているマニュアルが「DSM」です。
DSM-Ⅳでは、自閉症障害・レット障害・小児期崩壊性障害・アスペルガー障害・特定不能の広汎性発達障害を『広汎性発達障害』と分類していました。
2013年にDSM-5に改定され、これらの5つの病態を分類せず、連続的な概念であると捉えられて『自閉症スペクトラム障害』とされるようになりました。
2.原因って?
自閉症の原因は、まだ特定されてはいませんが、多くの要因が複雑に関与して起こると言われています。
①環境要因(約60%)
・父親が高年齢であること
・体外受精
・出生時の障害
・多産
・妊娠中の母体感染症
などがあげられます
②遺伝要因(約40%)
自閉症に関連する遺伝子が多くあると言われていますが、まだ明確にはわかっていません。
ですが、双子(一卵性双生児)での一致率が高く、遺伝的な要因は多いと言われています。
このように、胎内環境や周産期のトラブルを始めとした環境的な要因と、
関連する遺伝子の組み合わせなどによる遺伝的な要因が、脳の機能障害の原因だと言われています。
障害がある事に気付かれにくく、「変わった子」「しつけのなっていない子」とみなされることもありますが、その子が生まれ持った特性であり、決して親の育て方や性格が原因ではありません。
3.主な症状と合併症
定義にもあげられた特徴を、それぞれ詳しくみてみましょう。
①他人との社会的関係の形成の困難さ
一般に、「社会性が乏しい」と言われる状態です。
お母さんやお父さんとの関わりの中で、視線が合わない、後追いをしないなどの、愛着行動に遅れがみられることがあります。
また、他の人との関わりが少なく、ひとの真似をしない、名前を呼んでも振り向かない、表情が乏しい、ひとり遊びを好む、ひとりでどこかへ行ってしまうなど、他人への興味を示さないのも特徴です。
②言葉の発達の遅れ
言葉の理解や言葉を発することに遅れが見られます。
また、話しかけられても全く同じように繰り返す“おうむ返し”をしたり、言葉から意図を読み取ることが難しいなどの特徴もあります。
③興味や関心が狭く特定のものにこだわる
特定のものに異常に執着したり、同じ行動を繰り返したりします。
これは想像力の障害とも言われており、ごっこ遊びが苦手だったり、ひとつのおもちゃでずっと遊ぶなどの様子が見られます。
記憶力が強く、普段と違う事にはとても敏感で、記憶と異なる展開になると不安になり、落ち着きがなくなったり、かんしゃくを起こしたりする事もあります。
また、感覚過敏も大きな特徴です。
突然の大きな音や特定の音・声を苦手とする『聴覚過敏』や、
光をまぶしく感じたり、たくさんのものが視界に入るのを嫌がる『視覚過敏』、
服の着心地へのこだわりがあったり靴下を嫌がる、手に水がつくのを嫌がるなどの『触覚過敏』。
ほかにも、嗅覚、味覚、平衡感覚などへの過敏・鈍麻がみられる人もいます。
合併症として、自閉症の人の半数が知的障害を併せ持っていますが、その程度はさまざまです。
知的障害が全くみられない人も約30%程度おり、『高機能自閉症』と呼ばれています。
子どもの時には気づかなくても、学齢期になると『注意欠陥/多動性障害(AD/HD)』や『学習障害(LD)』、『てんかん』などの特徴がみられるようになってくる事もあります。
これまでは『自閉症』と『AD/HD』を同に診断する事はできませんでしたが、
DSM-5の診断基準では、この両方の障害を同時に診断できるようになりました。
自閉症による特性を周囲が理解できていない状態が続くと、本人が過剰なストレスを受けたり、トラウマが生じることがあります。
生活していく中で失敗や挫折を繰り返したり、過剰に怒られることを繰り返すことで自信を喪失し、自己肯定感が低下することで、身体症状や精神症状、不登校や引きこもりなどのさまざまな二次障害を生じる事も少なくありません。
4.自閉症の治療と関わり方
自閉症の病態や原因はとても複雑で、根本的な治療方法はまだみつかっていません。
つまり、自閉症そのものを治療することは不可能です。
現在、自閉症のある子どもへの治療と支援で大切なのは、教育・療育へのアプローチや、対症療法としての薬物療法によって、二次障害を予防することが一番の治療であると言えます。
自閉症の子どもに対する療育では、ひとりひとりの子どもの特性に合わせて、本人の力を引き出してできることを少しずつ増やし、生活上の困りを減らすことを目的として関わっていきます。
児童発達支援センターや放課後等デイサービス事業所などで、本人にとって適切な支援を受けると同時に、自閉症の子どもと関わる周囲の人たちの障がい特性への理解がすすむことで、身体・精神的な二次障害の予防につながります。
最近では、2歳頃での早期発見・早期療育が注目されています。
症状自体を改善することは難しいですが、長期的に見て、社会への適応が良くなると報告されています。
【療育のタイプ】
▶︎個別療育
マンツーマンで言語や認知、手先の巧緻動作・全身運動における指導を行います。
▶︎集団療育
複数人のグループで、ゲームや役割遊びなどを行い、他者とのコミュニケーションや社会性の発達を促します。
【療育法】
▶︎ABA(Applied Behavior Analysis:応用行動分析)
人の行動は直後に生じる結果(ごほうび)によってその行動が増えたり減ったりする法則があるという考え方です。
好ましい行動を増やしたり、維持することを「強化」と言い、新しい行動を覚えるのが難しいという特性をもつ自閉症の子どもたちにも「強化」を繰り返すことで少しずつ良い“行動”を増やしていきます。
▶︎TEACCH(Treatment and Education of Autistic and Related Communication handicapped Children)
自閉症をもつ子どもの発達状況や特性に合わせて、子どもが自信をもって取り組める環境・作業手順を用意することで困難さを軽減する方法です。
子どもが行動しやすい環境を、物を活用して整えたり(物理的構造化)、身の回りの情報を見える化して理解しやすくしたり(視覚的構造化)することで、混乱を抑えることができます。
▶︎感覚統合療法
自分の体と周りの環境の関わり中で、様々な感覚が入力され、脳で整理されます。
この過程を『感覚統合』と言い、子どもたちが楽しいと思える活動を自ら行い成功体験を積む時に、感覚統合機能が最も発達すると言われています。
感覚統合では、赤ちゃんがお腹にいる時から働き始める『触覚・固有覚・前庭覚』の3つの感覚を重視しています。
5.まとめ
今回は、世界自閉症啓発デーに合わせて、自閉症の特徴についてご紹介しました。
“障害”という風に捉えるとネガティブなイメージがありますが、自閉症はそのお子さんの“特性”であると言えます。
社会性の困難さや言語の発達の遅れ、こだわりが強いなどの特徴はありますが、視覚的な記憶力が抜群に良いことが多く、一度行った場所を覚えていたり、物の位置を正確に覚えたりすることができる人より優れた“特性”もあります。
このように、苦手なこともあれば得意なこともあり、発達に凹凸が見られる『自閉症』ですが、とても純粋で感じたままに話したり行動したりすることができる素直な人が多いのも特徴です。
周囲の人の理解や環境次第では、得意なことを伸ばしながら社会で生き生きと過ごしていくことができます。
それぞれの人たちが異なる“感性”や“特性”を“個性”として認め合い、支え合いながら共に生きていける社会を作っていきたいですね。